メール、メールって女子高生じゃあるまいし

 以前、僕がいた事業部が大阪で開催されたアパレルの合同展示会に参加した時の事だった。

僕が担当ではなかったが、部下の子が担当のチェーン店のご一行が来展された。
一行というのは正にその通りの様だったのだ。
今ではこの会社は身売りして、全く違った組織図になっているが、当時は創業者の女性の
専務が絶対君主として君臨し、社員はお付の者よろしく、何も言わず付き従い、まさに
大名行列の様であった。
その頃、内情は火の車だったようだが、表向きは関西を代表するチェーン店だった。
他の周りのメーカーの営業マン達は、みなこの一団に挨拶をしていたが、僕は後述する理由
からこの行列に興味がなかった。
大名行列は会場内をグルグル回って、うちのブースを通りかかった。
その際に専務がうちのサンプルを見て、はたと立ち止まって一言。
「これ、良いんちゃう」
すると、従者たちはスズメのように「そうですね」と合唱しだした。
そしてその中で一番偉そうなおじさんがうちの担当にぞんざいに伝えた。
「この分の絵型をメール送っといて」
僕はムカッと来て、座ったまま言った。
「〇〇〇〇(その小売屋さんの名前)さんはメール送ってもなかなか返事無いからなあ」
そのおじさんは何を言われたか、分からなかったようだ。
まあ、言われた事がないのだろう。
するとその時、専務が静かに言った。
「何、あんたメール送って、そのオーダーはうちから来たの」
僕は言った。
「いや、来てませんよ。だからさっきの質問したんですよ」
そして続けた。
「だから、うちの営業マンの時間がもったいないでしょ。おたくはいつもそうですよ」
それを聞いた途端、専務の声のオクターブが上がった。
「あんたら、メール送ってメール送ってって、商売にも繋げんと何やってんの!!
 メールやるだけで仕事してるつもりだったら、女子高生と一緒やんか!!」
その場はその一喝で凍りついた、僕と専務を除いて。
僕はとにかく専務の言った言葉が可笑しくて可笑しくて、そのまま笑い転げてしまった。
専務はまだ興奮が収まらず、続けた。
「うちら〇〇〇〇がこんなにバカにされて、、あんたらは悔しくないんか、ボケ!」
僕は涙が出るぐらい笑い転げてしまった。
笑いすぎて、椅子から転げ落ちた位だった。
だって、大の大人が10人ぐらいで子供みたいに立たされて怒鳴りつけられていたのだから。
その光景の傑作振りときたら。
専務もあんまり僕が隣で笑い転げているので、だんだん可笑しくなってきたみたいだった。
僕に「あんまり、あんたも笑いなさんな!」と怒って、自分も笑い出した。
大人2人で笑うというのはなかなか楽しい事だった。
お互い最後の一笑いを済ませると、専務は「じゃあ行くわ」と言ってさっさと出口に
行ってしまった。
先ほどまでうなだれていた一行は、慌てて後を追い出した。
去り際に先ほどの男性が僕に丁寧にこう言った。
「必ずオーダーするからメール送っておいてください。よろしくお願いします」
僕は承知したと伝えた。
大名ご一行の姿が見えなくなって、担当の子が僕に聞いた。
「メール送りますか?」
僕は当然こう答えた。
「止めとけ。ムダやから」
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