大阪の地に降り立って

新大阪の駅に降り立った時、私は熱く燃えていました。
必ず大阪店を会社一の事業部にするぞ!と。
以前勤めていた会社は、福岡、東京、大阪に拠点があり、
業績は東京、福岡、遠く離れて大阪でした。
早速地下鉄の乗り換えに苦戦しながら、天満橋のOMMまで
辿り着きました。以前はここに大阪店がありました。
「転勤してきました。よろしく御願いします」
私の挨拶によろしく、と返事を返してくれたのは経理の
おばちゃんだけでした。
他の人は無視か、会釈だけでした。
正直これは相当頑張らないとな、と思いました。
同時に何とかしてやるぜ!と、またメラメラ燃え上がりました。
しばらくすると大阪店の店長が来て、取引先回りを早速今日から、
開始しようということでした。
そもそも私が急遽、大阪に転勤が決まったのには訳がありました。
私の前任者がメインのお客さんと、トラブルを起こしてしまった
ことで、退職になったからでした。
ここでも私はまたゼロからのスタートを余儀なくされたのです。
早速店長と連れ立って、大阪で初めて営業活動に向かいました。
私は、赴任一日目に連れて行かれる取引先は、大切な取引先に
違いないと思い、少々緊張しながら阪急電車に乗りました。
降りたのは梅田の2つ先の駅でした。
アーケードのある商店街の中を歩いて、店長が喫茶店の中に
入って行きました。
私は、商店街の寂れてる雰囲気にのまれながらも、喫茶店で
待ち合わせしてたのかと、気を取り直して続きました。
すると店長は、喫茶店のマスター風の方と話し始めました。
しばらくすると私を紹介し出しました。
「こいつが後任なんですよ」
私は圧倒されてしまいました。
喫茶店の横が衣料品店で、マスターの奥さんが趣味で経営している
とのことでした。
衣料品店を覗くと、うちの商品が大安売りで売られていました。
そのあと5軒ほど既存の取引先を回りましたが、どこも同じような
感じでした。
帰りがけの電車の中で、店長が大阪の商売について話して
いましたが、私の心には届きませんでした。
私は本社では大手の量販店、チェーン店を担当していました。
ただ、だからといって小口のお客さんをバカにしていたわけでは
ありません。
大阪店の既存の取引先が小口が多い、というのは赴任前に調べて
いました。
私が驚いたのは、転勤して初日に行く取引先が、私の中では一番の
取引先のはずと思っていたからです。
その日訪問した取引先は、全て月間の取引額が僅少の先ばかりでした。
あえて、初日に回る必要がある取引先とは、思えなかったのです。
優先順位が仕事にはあると思います。
取引先は同じ平等といえ、やはり沢山取引があるお客さんが
営業マンにとっては一番大切なお客さんです。
大阪店にとって一番大切な、一番取引が出来ている顧客のもとへ、
まずは転勤の挨拶をするのが当たり前だと思うのです。
そうやって、大口の顧客が自社から逃げないようにすることが
大切だと思ったのです。
まあ後で気付きましたが、本当にメインの顧客には逃げられて
しまって、本当に顧客ゼロの状態になってたんですね。
店長は私に大阪の道案内がてら、という気持ちだったようです。
その後2週間ほどは、毎日店長に連れられて同じように取引先を
回りました。
その頃流行っていた曲で、いつも会社帰りに通る角のガソリン
スタンドで流れていた、山崎まさよしの”One More Time One More
Chance”を聴くと、今でもその頃の切なかった思い出を思い出します。
本当につらかったなあ。

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